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のんびりとしていられたのはつかの間のこと。
唐杉の研究室につくころには比叡の手首は真っ赤にはれていた。
しかし、そんなことよりも比叡が気になったのは霧が立ち込める唐杉の研究室だった。
扉を開けたとたん、タバコ臭い空気が外へと流れ出てくる。

「ああ、そういえば窓を開けていくのを忘れていましたっけね。」

おまけに研究室内は散らかり放題だった。
本があちこちに散乱し、何かのメモらしい紙切れがそこかしこにおきっぱなし。

高雄の部屋も大概似たようなものだが、ここまでひどく散らかった部屋を初めて見た比叡は痛みも忘れて目を丸くした。

「どうしたんですか?早くお入りなさい。ああ、其処のソファに座っていてください。」

「お邪魔、します・・・」

比叡はとりあえず落ちているものに躓かないよう注意しながらそっと促された応接セットのソファに腰掛ける。
やたら散らかった部屋に比叡は落ち着かなかったが勝手に触るわけにもいくまい、とそれらから視線をはずして考えないようにした。
その間に唐杉は部屋中の窓を開けたのだろう。
秋の冷たい風が流れ込むが、部屋の中に立ち込めていた霧はいつの間にかに流れ出てしまっていた。

「さあ、手首を見せてください。」

「あ、お願いします。」

「其処の肘掛に手を置いて。」

唐杉は何度か湿布を比叡の手に当ててサイズを確かめるようにはさみを当ててようやく大きさが決まったのか手首と手の甲を覆うほどの大きさに切ると比叡の手に当てる。
ひやりと冷たい湿布に比叡は指を振るわせた。

「二週間ほど重いものを持ったり無理した動きは控えてくださいね。」

「唐杉先生て、お医者様みたいやね。」

「実は医師免持ってたりするんですよ。」

「嘘?」

「ホント」

くるくると器用に包帯で固定されるのを比叡は面白そうに眺めた。
痛くないよう、それでもきっちりと動かないように固定していく。

「はい、おしまい。」

ぴっ、とテープを切ると包帯を留める。

「本当は病院へ行ったほうがいいんですが、行ったところで「捻挫です。湿布を出しておきますね」のオチですから。明日になっても腫れがひどいようなら病院に行って下さい。お風呂につけるのは控えたほうがいいでしょう。できるだけこまめに湿布を変えるように。」

唐杉はまた元あった様に包帯をしまうと別の紙袋にあまっていた湿布とテープを放り込んだ。
そしてそれを比叡へと差し出す。

「はい、これはあげますよ。」

「ええですよ、ここまでしてもろて湿布までもろてしもたら。」

「薬局で買うよりいいでしょう。最近の薬局はどうにも物が高くていけない。」

でも、と食い下がる比叡の左手に紙袋は無理やり押し付けられた。

「どうせ怪我人でも出なければ使わないものです。ですから持って行ってください。」

押し付けられたものをつき返せるほど、比叡の神経は太くなかった。「おおきに」と小さく呟いて紙袋を受け取る。
 
「さて、小倉教授のところへ行くんでしたね。ええと、学内図はどこにおいたんでしたっけ。」

比叡が受け取れば「さあそれらはもう用済みだ」といわんばかりに、唐杉は部屋にある封筒の類をひっくり返し始めた。
やがて取り出したのは入学案内。
何でこんなところにあるのか比叡は不思議に思ったが、まさか入学を勧めるためではないだろうということは分かった。
唐杉は中から校内案内を取り出すと比叡に差し出す。

「今いるのがこの南棟、此処を出てこの道をまっすぐ行けば西棟に着きますから、其処の314教室が小倉教授の研究室です。」

この地図も持っていってください、と校内案内のパンフレットも手に押し付けられる。

「あの、ほんま何から何まですんません。」

「ああ、別にいいんですよ。じゃあ、気をつけていってくださいね。」

唐杉は先に立ち上がると研究室のドアを開けた。
比叡もゆっくり立ち上がると左手に紙袋をぶら下げ忘れ物がないことを確認する。

「ほんまにおおきに、ありがとうございました。」

「いえいえ、それではお気をつけて。」

唐杉は比叡が部屋の外に出ると扉を閉まりそうになった。ちょうど講義が終わったのだろう、静かだった校内はにわかに活気付き始めた。

「あ、あの!」

「・・・はい、まだ何か?」

閉まりかかっていた扉が少し開く。比叡はなぜだか見えた唐杉の顔にほっとした。

「あの、またお礼に伺ってもよろしいやろうか?」

「・・・まあ、私の仕事を邪魔しない限りは、いつでもどうぞ。」

比叡は満面の笑みを浮かべると深くお辞儀をして生徒に混ざりながら校舎を去った。
学内で見たこともない着物の少女が珍しいのだろう。学生達は奇異なものを見るように比叡に視線を注いでいた。
比叡はその視線から逃げるように唐杉に教えられた道を歩き始める。
まるで不思議なものを見るかのような視線を窓から覗いている唐杉が向けているとはしらずに。

 
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