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久方ぶりの町の喧騒に比叡はものめずらしそうに辺りを見回しながら歩いていた。
比叡がいつも着ているのは呉服屋に仕立ててもらう上等な着物ばかりでブティックに足を運んだことなど一度もない。
テレビもニュースばかりで唯一同年代の少女たちと交流のあった高校まではその話を級友にするたびに「つまんなくない?」と尋ねられたりもした。
高校は全寮制だったが、小型のアンテナテレビくらいなら持ち込めたし、比叡と同い年の少女たちはDVDプレイヤーも持ち込んで流行のドラマを世間より少し遅れて見るのが其処での「普通」だった。
 
確かに、小さい頃は絵本のお姫様にあこがれもしたし、それなりにアニメや子供向け番組にも興味を持った。
しかし兄も学校に行く以外は殆ど着物で、家でついているテレビ番組がニュースばかりだということを別に不思議にも思わなかったし嫌とも思わなかった。

それが自然だと思っていたから。

 幼い頃に他界した両親の写真を見ても洋服を着た写真というのは両親が学習院に通っていた頃までのこと。
結婚以降の写真は一枚も洋服で写ったものがなかった。

別に着たいという訳ではないがきらびやかで派手なスカートやチュニックを見ているとなんだか楽しくなり、一人笑顔を漏らしながら兄の働く大学への道のりを歩く。
限られた自由という時間を好きに使うことが今の比叡にとっては一番有意義なことだった。

電車に乗り、商店街を抜け、街路樹と街頭が交互に並ぶ道を過ぎるとようやく学校が見えてきた。
大学に通わない比叡はその大きさに目を丸くした。
彼女の通っていた高校は私立の全寮制とはいえこれほどまで大きくはなかった。

「すごい」と思わず口に出して警備員の男性に少々怪訝なまなざしで見られれば肩をすくめて急いで校門を通り過ぎる。

 昼前だからか、講義のない学生たちがちらほら見えた。
校内に置かれたベンチに座るカップルや、喫煙スペースなのだろう狭い東屋でタバコを吸う講師もいる。
比叡も空いているベンチを見つけると其処に腰掛けて巾着に入れていた携帯を取り出した。
電話帳の一番最初に入っている兄の番号をプッシュすると携帯を耳に当てる。

 ちょうどその時、比叡の視界に奇妙な男が映った。
特に目立つ恰好をしているわけではない。しかし存在感はその場にいる全員を霞ませるほどだった。
『比叡、ついたんか?』 

耳に届いた兄の声に比叡は我に返った。

「は、はい!」

『?どないしたんや、比叡』

「え?なんもあらへんよ。今、校門からすぐのベンチに座ってる。」

『分かった、すぐ行くしまっときや。』

その言葉を最後にすぐに切れた通話。比叡が携帯から耳を離し顔を上げるとさっきの男と目があった。


耳の奥でざあっと液体の流れる音がする。


男は少し辺りを見回した後比叡に近づいてきた。

よれよれでいろんな染みのついた白衣。

ぼさぼさで縛りもしない長い髪。

無精ひげを生やしたままでかけているめがねは少し曇っていた。

お世辞にもいい男とはいいがたい。

しかし、存在感は圧倒的だった。
目の前に立つ男に比叡は視線を奪われる。

「ここ、いいですかね。」
「え?」
指差されたのは自分の隣の開いたスペース。

胸ポケットからタバコを出して見せているところを見ると休憩を取りに来たのか。
確かによく見れば比叡の座る場所の反対位置に吸殻入れがおいてあった。

「ど、どうぞ・・・」

「どうも」

比叡がわずかに身を動かしてスペースを作れば男は遠慮なく其処にどっかりと座り、タバコを咥えると火をつけた。


 

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