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さて、件の日曜日。比叡は落ち着かない様子で目の前に座るスーツの青年を見た。
慶吾は確かに上流階級を思わせる風格を持った青年だった。若い割にしっかりとはしている。しかし…

「それでですね、オペラと言うのは」

(この人、さっきから自慢ばっかりやわ…)

うんざりしたように比叡はこっそりとため息をついた。
そもそも、純和風の家で育てられた比叡と、海外をあちこち飛び回って育った慶吾とでは嗜好があう筈もない。
和菓子や和食が好きな比叡に対し、予想通り慶吾は自らの手がける洋菓子の話ばかりをしていた。

「何よりですね、あれほどの職人の技を間近に見れる機会などめったにありません。」

「すごおますなぁ」

慶吾は比叡の打つ相槌を自分の話が面白いからうたれる物だと思っていたが、実際のところ、比叡はすこし飽きはじめていた。その視線は部屋のすぐ傍にある内庭へ注がれている。

「どうなされました?」

比叡の相槌がやんだことに気づいたのだろう。かけられた声に比叡はあわてて慶吾に向き直った。

「い、いえ…見事なお庭やとおもいまして。」

内心しまったと思いつつ、無駄にごまかすよりも素直に答えた方がいいだろう、と比叡は再び庭へ視線を移した。

「ああ、私はあまり日本庭園を見る機会はないのですが、確かに趣があるものですね。」

「ええ、私の家は日本家屋なもので、こちらのほうが落ち着きます。」

「なら、すこし内庭を散策してみますか?」

「圭吾さんがよろしぃんでしたら。」

比叡は内心慶吾の洋菓子の話がやんだことにほっとしていた。
先に立つ慶吾の後から静々付いていき、不意に足を止めてしまった。

「どうかしましたか?」

「いえ…」

気のせいだ、比叡は自分にそう言い聞かせてまた話を始めた慶吾に相槌を打ちながら歩き始める。



比叡の足をとめたのは、ここしばらく聞いていない唐杉の声だった。

聞こえるはずのない男の声に比叡はどきりとした。

同時に男を思い出して、比叡は懐かしさと羨ましさがこみ上げてくる。
唐杉はきっと何かに縛られたりはしないのだろうと…。
きっと今日もあの甘い匂いのする煙草を口にくわえ、部屋に煙草の煙の霧をため込みながら研究にでも没頭している。
慶吾が嫌いなわけではないが…だが、何か遣る瀬無い、空虚な思いを抱えながら比叡は空を見上げた。
 

 
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