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2.次男・マリオン


朝の6時。
掛けていた目覚ましの音を聞いてマリオンはパチンッと目覚ましのボタンを叩く。
あまり長く掛けていると、つい先日帰ってきたばかりの姉が・・・まぁ、不機嫌になってしまうからだ。
そっと耳を済ませるが両隣の部屋の兄弟も、姉も起きていないらしい。

とりあえず右隣の部屋の兄はまず震度5の地震でも起きないだろう・・・。

今日の予定は、とダイアリーをひろげているマリオンは紛れもなく小学6年生。
けれど小学生とは言えど暇を持て余しているわけではない。
遊びにだって一生懸命な年頃なのだ。

「今日は・・・何にもなしか。」

マリオンの通う小学校は「生徒の自主性を尊重するため」だとかどーたらこーたらで、月々のイベントやそのほかの学校行事、その他の雑用一切合切を生徒に任せてしまっているのだ。
そしてマリオンは生徒会長・・・忙しくなるのは当たり前。

オマケに何故だか出会って5分で友達?みたいな雰囲気を作るのが上手いせいか、その上運動神経もそこそこのためか、色んなクラブから「試合があるから助っ人に来い」・「メンバー足りないからよろしく!」と日々引っ張り蛸な人生。
(そして少年は学生生活がなくなるまで、ずっとこんな生活なのだということをまだ知らない)

まぁ、そんな現状を楽しめるマリオンでなかったらまず誰もそんな頼みごとをしないだろう。


桃色のカッターシャツにベージュのセーターを合わせて、ギリギリ短パンといえるようなズボンを穿く。
元々姉のものだったその服は、姉が着古し、兄が着古し、自分に回ってきたお下がり。
けれど物を乱雑に扱わない二人だからか、それらはまるでつい最近買ったもののように綺麗なままだ。

そして、やっぱり元は姉の持ちものだった等身大の鏡の前に立って身だしなみをチェックする。
断っておくがマリオンはナルシストではない。
鏡の中の自分を見て溜息を零すような危ない子供ではない。

長年の経験で、自分の夢を語ると他人に笑われると学んだ彼はいまやその夢を口にすることはないが、目指しているのは「白馬に乗った王子様」という、なんともメルヘン(げふんっ、ごふんっ)いやはや、高すぎる崖の上にある花を摘むような夢を目指している。
むしろエベレストの頂上といったほうがいいだろうか。

マリオンの中の理想の王子様像と言うのは何事においても完璧で、もちろん身だしなみを初めとする外見も、スポーツも、勉強も、何でもござれという「こんな奴本当にいるのかよ、と問い返したくなるような人間だ。

本人は癪に思っているが、かなり・・・いや反りがまったく合わない父に似たために外見はまず問題ないとわかっている。
多分こんな事をいったら全国の男子諸君に殺されるだろうけれど・・・。
そして物分りのよさも、たいていの子どもが嫌う理科や算数といった勉強もそつなく要領よくこなせるのは恐らく父親に似たからだと言うのを本人は一番よく知っていた。
多分父も、若い頃はかなりもてたのだろう。
生憎スポーツは万能ではないようだが・・・。
だがマリオンの目指す王子様と決定的に違うのはあの「性格」だ。

ああはなるまい、とマリオンは心のうちに決心を固める。

「っと、そろそろ下に降りなきゃ。」

目に映った机の上の時計が指し示す針は6時45分。
やや自問自答の時間が長かったようで、マリオンはカバンをつかむとリズムよく階段を駆け下りていった。


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1.奥方・比叡


明け方の4時過ぎ。
どうやって時間を判断しているのか、一家の台所を支える比叡はひっそりと起き出した。
同じ寝台で寝ている夫の顔を覗き込めば、自分しか知らない普段よりも幼げな寝顔で平和そうに寝息を立てている。

寝室から襖で続いている隣の自室に音もなく滑り込むとそっと襖を閉じた。
寝巻きに使っている浴衣は昨日出したばかりのものだから、と衣紋掛けにかかっている藤色の着物を降ろして変わりに掛けた。
着物を着る人なんてほとんど居ないこのご時勢。
いたとしてもファッション程度で、帯も正直言ってきちんと自分で結べる人がどれほどいるだろうか。

しかし彼女は手馴れた手つきで長襦袢、着物、帯を着付けていった。
最後に帯締めを絞めて鏡台の前に立つと確認するように一周する。
少しばかり納得がいかなかったのか帯びの形を整えなおすと、今度こそ満足したように小さく頷いて鏡台の前に座り櫛を手に取る。
背中の中ほどまでに伸びている黒髪は毎日きちんと結われているせいかやや癖がついていた。

何時ものように簪と櫛を手に取り手早く纏め上げると重苦しい髪はさっぱりと結い上げられている。
ただし、右頬から右目だけは伸ばされた前髪で覆われたまま。

わざわざ上げて見せる顔でもないからと、彼女は前髪をやや垂らしたまま鏡台の前を離れると台所へと足を向けた。

今日の朝食はなんにしようか、と頭の中に思い浮かべる。
理想としてはご飯にお味噌汁、焼き魚に卵焼きと純和風の朝ご飯。

けれど、今日は珍しく昨日の残り物のポテトサラダがある。
和食とポテトサラダも悪くないけれど、やはりここはトーストとベーコンエッグ、それにスープのほうがいいかしら、なんて思い浮かべながらリビングに明かりを灯すのだった。




比叡の予想通り、比叡が唐杉の研究室に行くのをやめたとたん兄の機嫌はあっという間に直った。
確かに、あのマイペースに生きる唐杉と高雄とでは反りが合わないどころか反り返りすぎて交差しそうなほどに性格が違うだろう。
唐杉の研究室に行くのをやめて日が経つのにつれて比叡が高雄の研究室に向かう足も次第に遠のいていった。

代わりに比叡は図書館に足を運ぶようになった。
図書館に寄った帰りは必ずといっていいほど大学に程近い喫茶店により、借りた本の一冊を其処で読む。
夕暮れ時になると喫茶店の横を通り過ぎていく学生たちの流れに目を向けて時間をすごした。

やはり、大学に通う学生が羨ましかったのかもしれない。ショーウィンドウを眺めている時間も増えた。
煙草のにおいも以前ほど嫌いではない。

唐杉の研究室では何時だってふるい本のインクの匂いとすこし甘い煙草の香りが混ざっていた。

こうして、隣の席の男が吸っているタバコのにおいを感じるのは今でもすこし嫌な感じはするが、唐杉のところへ通っていた頃に来ていた着物に染み付いた甘い匂いを感じるのは好きだった。
窓の外の学生の流れを見つめていると、時折学生に混じって見覚えのある長い髪の男、唐杉が通り過ぎて行った。
どうしてだろうか、その姿を見つけた途端に比叡の目線はその横顔後姿に釘付けになり数分はその席で呆けてしまうのだ。

また、あの部屋は散らかっているのだろうかと思ってみたり、読んでいて分からない言葉があっても最初に“先生”である唐杉の顔が目に浮かぶ。

窓の外を通り過ぎていく唐杉の姿を見る、比叡がそんなひそかな楽しみを持った頃だった。


許婚の松原との正式な見合いが決まった。

 「先方の話では坊ちゃん、慶吾さんが是非にていっとるらしい。留学先から来週お帰りにならはるらしい。」

その話が持ち上がったのは比叡が外に出るようになって二ヶ月なろうとする頃だった。
比叡を外に連れ出すきっかけになったとも言えるあの捻挫は当に完治していた。
ずっと巻いていてボロボロになった包帯は今も比叡の文机の抽斗に大切にしまわれている。
ふいに浮かんだ唐杉の顔を頭の中から消すと、無理やり慶吾の顔を思い浮かべようとした。

「慶吾さんて、どちらの国に行ったはりましたんやったっけ。」

「フランスや。松原さんとこの洋菓子店を任されるらしい。会社全体の経営権は次男の雄也君がやるらしいわ。パティシエの修業にでとったらしい。」

「パティシエどすか。洒落た方どすねえ。」

そうは返事したものの比叡は洋菓子が苦手だった。
昔から比叡にとっておやつの時間といえば和菓子ばかりだった。
むしろ、洋菓子が苦手というよりは洋食そのものが苦手だ。

そういえば、唐杉の部屋に行ったとき一度だけ出してもらったお菓子は比叡の好きな店の金平糖だった。

ハ、と比叡はあわててその記憶を打ち消した。
今は唐杉の話ではない、将来の夫でもある慶吾の話をしているのだ。

「…うち、洋食なんて作れませんわ。パティシエ言わはるからには洋食のほうがよろしいんですやろ?」

「せやなぁ。佳代もほとんど洋食なんて作ったことあらへんやろうし。」

「お料理教室にでも通うた方がよろしいやろうか。」

今は佳代が料理の支度をしてくれるが、結婚すれば比叡が作ることになる。
もしかしたら先方も佳代のような家政婦を雇っているかもしれないが、すべて任せきりという訳にも行かない。

「まだ詳しいことはわからんけど、見合いがすんだらいろいろと決まっていくやろうからな。」

「……結婚か、何や実感ありませんわ。」

その言葉のとおり、比叡はまだ18歳だった。
時代遅れの花嫁修業をして毎日を静かに過ごしていく。
裁縫をしたり料理を作ったり華道や茶道に作法。毎日の数時間をそんな習い事をしてすごす。
余った時間は図書館に行ったり、喫茶店で本を読んだりして過ごす。

どうしてだろうか、見合いをすることは分かっていた。
だと言うのに比叡の脳裏に浮かぶのはさっきから唐杉のことばかりだった。

「兄さん、うち今日ちょっと疲れたさかい、もう寝ますな。」

「ああ、そうか。最近すこし無理をしていたかもしれないな。早く寝なさい。」

「はい、おやすみなさい」

「お休み。」

比叡は居間を出ると月に照らされた庭を見た。
比叡の部屋は二階の角にある。
この庭は比叡の部屋からもよく見えるのだ。
障子を開け放てば、月の明かりだけで部屋はうっすらと明るくなる。
例によって、比叡は電気をつけずに寝巻きに着替えた。
布団をしこうと襖のほうへ寄ったとき、比叡の目にあの日から衣文掛けにつるしたままの着物が映った。
本当ならこんなにも煙草のにおいが染み付いた着物など早くクリーニングに出さなければいけないのだ。
だが比叡にはその煙草のにおいが名残惜しかった。

もう煙草のにおいは嫌いではなくなったけれどまだ苦手だ。

けれどこの着物に染み付いた煙草の匂いは手放したくなかった。

手を伸ばして着物のたもとに鼻を押し当てる。着物からはあの部屋と同じ匂いがしていた。

「…先生」

そう口にして、切なくなった。

 


同じように唐杉も、ここの所なんだか調子が悪い、と以前に比べてきれいになった部屋を見回しながら頭をかきむしった。

いつもここに来る小倉教授の妹は何かをせずにはいられないたちなのか、たまにきては少しずつ部屋を片付けていく。
彼女がこまめに換気もするようになった為か以前のようにタバコの煙が霧となって部屋の中にたまることもなくなった。
今のところ自分にとっての実害はないから放っておいたままなのだが実に変わった人材だ、とタバコの煙を思い切り吐き出しながら思う。

こういっては何だが唐杉は自分でもある程度のものはすべて持ちえた人間だと自覚していた。
研究者としていくつか賞もとったことがある、大学の教授としての地位もある、それに故郷には両親が残した遺産と今まで自分が溜め込んできた財産もある。

まあ、ないものがあるとすれば「豊かな人間性」というやつだろう。

短くなってきたタバコをもみ消し書かなければならないレポートでも纏めるか、と机に向かおうとしたとき。

本日二度目の軽快なノック音が聞こえた。

「開いてますよ。」

「失礼します。すんません唐杉先生。」

予想通り、部屋に入ってきたのは比叡だった。
唐杉はさっきまで考えていたことを隠すように来客用の笑顔を浮かべた。

「どうしました?何か忘れ物でも。」

「はい、先生にお借りした本をお返ししようと思てたんですけど、うち、すっかり忘れてまして。」

ああ、そういえばそんなこともあったか、と唐杉は比叡に差し出された本を受け取る。

「そうですか、別に今度でもよかったんですが。

「いえ、あんまり長くお借りするんも悪いですし。」

別にそんな気遣いは必要ないのに、ともおもったが唐杉は笑顔も崩すことはなく受け取った本を机の上へと置いた。

「わざわざありがとうございます。それより行かなくていいんですか?」

「え?」

「小倉教授のところですよ。途中で飛び出して私なんかのところへ来たらあの人怒ってるんじゃないですか?」

比叡はその言葉に青ざめることこそなかったものの引きつった笑みを浮かべていた。

「うちの兄が毎度毎度すんません。」

「いえいえ、別にかまいませんよ。それより早く行ってあげなさい。」

「はい、ほんなら先生。ありがとうございました。」

比叡は体よく追い出された、とはおもっていないだろう。
唐杉は扉の向こうに消えた彼女のことを瞬時に頭の外へ追い出すといすに腰掛け、本日何本目になるかわからないタバコに火をつけた。
廊下に出た比叡はそんな唐杉の心情など知るはずもなく、軽く首をかしげていた。

「先生…ご機嫌悪いみたいどしたなぁ。」

先ほどに比べると部屋の空気はぴりぴりと張り詰めているように感じた。
そういえば、ここの所理由もなく押し掛けていたような気がする。

「やっぱり、迷惑どしたんやろな。」

ふう、と息をつくと比叡はもたれていた部屋の扉から離れて歩き出す。

しばらく行くのは控えよう。高雄も正直なところいい顔をしていないのだから。
比叡は高雄の研究室に行くまでにぼんやりとここ数日のことを思い返していた。
自分がどんな表情を浮かべているのか、まったく考えもしないで。


それからというもの、高雄にとって面白くないことが立て続けにおこった。

いいことをあげるとするなら一つ。

許婚がいるからという理由で家にこもり、花嫁修業と呼ばれる類のことばかりしていた妹がよく外に出るようになったことだ。
お陰で最近は顔色も明るくなっている。
以前が病的だったわけではないがやはり日の光を浴びるのと浴びないのとでは断然違う。

……問題は、その外に出るようになった原因だ。

唐杉黒羽。

この名前を聞くだけで高雄はむかむかしてくる。
しかもその名前が食卓でよく出てくるようになったとなれば不機嫌にならざるをえない。
悪い噂ならばまだしも可愛い妹が楽しそうに唐杉のことを話すのだ。
佳代は佳代で比叡が家事以外のことにも興味を持つようになった、と楽しそうに唐杉の話を聞く。
ああ、おもしろくない!と高雄は読み終わった生徒のレポートを乱暴に置いた。
時計を見あげれば今は3時を少し回ったころ。
後数分もすれば比叡が此処へやってくるだろう。

唐杉の部屋へ行ったついでに!

何が悲しくてあの男のついでにされなければならないのか。
そんな高雄の気も知らず、いつもと同じように小さくノックの音がした。

「どうぞ」

間違って生徒だったりしたときの為に高雄は入室許可の言葉を変えることはない。
しかしこのたたき方は比叡だと確信していた。

「兄さん、ごくろうさんです。」

お茶にしましょ、と比叡が見せた袋は高雄が好きな和菓子店の手提げだった。

「ああ、せやな。」

高雄は、さっきまでの苦悩をなかったかのように笑顔で妹を迎え入れた。
結局のところ現金なもので妹がよりによって自分が一番苦手とする男の下へ足しげく通うものだからむかついていただけなのだ。
 
「右手の具合はどないや?」

「大分とよぉなって来ました。さっきも唐杉先生が包帯巻きなおしてくれはったんよ。ええ人やわ。」

ぎゅっ、と湯飲みをつかむ握力が強くなる。
割れることはないが軽くその手は震えていた。

「そ、そうか。そら、よかったなぁ。」

後ろを向いたままでよかった、と高雄は心底思った。
口はともかく、表情が決して笑顔ではないことくらい自分でもわかったから。
確かにやってることはいいことなのだ、これで文句でも言おうものなら、また比叡に怒られることは間違いないだろう。
 
「はい、あ!」

「どないした?」

袋を覗いたとたん、高く声を上げた比叡に高雄はあわてて振り返った。

「しもた、先生に本返すん忘れてた。」

「本・・・?」

比叡が取り出したのは英語の表題の難しそうな化学の本だった。
当然高雄が貸したものではない。最近比叡が先生と呼ぶのは唐杉一人だ。

「兄さん、うちちょっと先生のとこもっぺん行ってきます。」

「え?おい、ちょぉ!」

高雄が止めるまもなく比叡は本を片手に持つと研究室から飛び出していった。
あとに残されたのは比叡の持ってきたお茶菓子と高雄のみ。

「唐杉、絶対許さん!」

こればかりは比叡がなんと言おうとも、高雄は唐杉から比叡を引き離すことを心に決意した。

 


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