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もう行くことはないと思っていた高雄の勤める大学に行くことになったのはそれから一週間も経たないころだった。
高雄の研究室宛の封筒が間違って自宅に届いてしまった。
比叡はこの前と同じように佳代に留守を任せて家を出る。
電車に揺られて大学のある駅につくと足早に商店街へと向かった。

今日もこの前と同じようにショーウィンドウに飾られたバッグや服を見ながら大学へと向かう。
どうしてだろうか、今日はこの前よりも少しゆっくりと歩いていた。高校の制服以外はいたこともないスカートやバッグがやたら目に付いた。
そのせいか普通なら十五分もかからない商店街の道のりで三十分も時間を使ってしまった。

比叡は商店街を抜けると、街路樹のある煉瓦道の先にある大学へと早足で向かった。
着物が着崩れないように小走りをするというのはなかなか難しいものだが着慣れている比叡にとってはその程度はなんともない。
だが、そう遠くはないとは言え小走りではやはり時間がだいぶとかかった。

ようやく校門あたりにたどり着いたときには軽く息が切れていた。
どうしてそんなに急いでいるのか自分でも分からないまま、早く兄に書類を届けなければいけないからと自分に言い聞かせて、乱れた裾を整えあと少しと足を動かし始めたとき、ちょうど向こうから曲がってきた人とぶつかってしまった。
 
「ん?」

「ひゃっ」

まったく違う反応が同時に上る。

小柄な比叡がぶつかっただけでは相手はたいしたこともなかったのだろう。
しかし逆に比叡は自分からぶつかってそのまま跳ね返されてしまった。
数歩よろめいたところでそのまましりもちをつくように転倒してしまった。
同時に手に持っていた封筒も落としてしまう。

この時まったく見当違いだったが、比叡は兄に見られなくて良かったと妙な安心をしていた。

「…あー、大丈夫ですか?」
 
聞き覚えのあるバリトンの声に比叡はそのまま顔を上げた。

「すみませんね、前をよく見てなかったもので。」

先日あったばかりの男、唐杉黒羽は片手に持っていた本を軽く掲げて比叡に見せた。

「い、いえ。うちのほうこそ全然前を気にしてへんかったもんやさかい。」

「立てますか?」

「はい、大丈夫です。」

比叡はそのまま立ち上がろうと地面に付いた手に力を入れた。
そのとたん、ピリッと電流が走るような痛みが右手の手首に伝わる。
小さくうめく声が聞こえたのか顔をしかめたのが見えたのか、唐杉はそばにしゃがむと「失礼」と小さく声をかけて比叡の手を取った。

「あー、これは捻挫ですね。多分転んだときに変に力がかかったんでしょう。」

「捻挫、ですか」

それよりも、比叡は間近で見た唐杉の顔がこの前見たときよりもこざっぱりしていることに気付いた。
メガネの曇りはぬぐわれ、無精ひげはそられている。
髪の毛は相変わらずだらりと流したままだったが櫛を入れたのだろう、妙な方向に跳ねてはいなかった。
比叡が見ていることに気付いたのか、唐杉が顔を上げる。

「どうかしましたか?」と尋ねる声に比叡自身唐杉をじっと見つめていたことに気付いた。

「い、いえ!ただ、この前と感じが違うなぁとおもただけで」

唐杉はこの前?と首をかしげるとやがて「あー、あぁ」と思い出したのか声を上げて一人頷いた。

「小倉先生の妹さんでしたね。」

「はい。改めまして、小倉比叡と申します。」

「私は唐杉黒羽ですよ。この学校で物理化学を教えています。」

立ちましょう、と唐杉は比叡の挫いていない左手をつかむと引っ張り起こした。
間近で並ぶとずいぶんな身長差があることが分かる。
大方二十センチほどの差はあるだろうか。

「私の研究室に行きましょう、救急箱があります。」

「え?あ、大丈夫です。これくらいやったら家帰った後でも。」

比叡が遠慮するようにそういうと唐杉は少し眼を細め背を屈めた。
近づいてくる顔に思わず後ずさりをする。

「お嬢さん。捻挫はね、放っておくと後が大変ですよ。それにこの学内の保健室に行こうものなら小倉教授の妹さんということで質問攻めにされるでしょうね。あの人、意外ともてますから。」

どうします?と微笑を浮かべる唐杉の言葉を断る理由は比叡にはなかった。
此処の保健室に行っても質問攻めにされるくらいならまだ唐杉のほうがましだろう、と比叡は小さく頷く。
言葉にせずともその返答の意図は分かったのか「よろしい」と唐杉は高圧的に言うとおちていた封筒を拾いあて先を見る。
 
「これを届けに来たんですか。」

「はい、兄さんの研究室あてやったさかい急ぎやったら大変やろうと思いまして。」

「小倉教授の研究室は西の方の棟ですからね。後で地図を見せますよ。」

「ほんま、何から何まですんません。」

そういわれて初めて、比叡は高雄の研究室の場所も知らなかったことに気付いた。
肝心の事務室も分からないような状態で唐杉に会えたことは幸運だったか、と一人笑みを浮かべると先を歩く唐杉の後ろをゆっくりと歩き始めた。

 
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